第14章:少年
本来ならカストゥール家という家柄の者が、ウラート程度の身分の者に話しかけるようなことはしないはず。ところが、このミアーハ・ルーン・アルル・カストゥールという男は、ここへ案内するまでの短い間にも、執拗にウラートに声をかけてくるではないか。
そのことから、ウラートは彼が今日の稽古相手のことをまったく知らされていないことに気づいた。最初の予想通り、カストゥール候は稽古相手の顔を見て驚いた様子だった。
「リュ・リーンの家臣では一番の新顔か? 私は彼の部下にこの様な者がいるとは聞いていなかったが」
稽古用の剣を利き手から反対側の手に持ち帰ると、カストゥール候は感心したように稽古相手の顔を注視した。
「オレの顔にどれほどの価値があるか知らないが、男に眺められても嬉しくもなんともないぜ」
「シーディ! 無礼な口を利くな。こちらの方は聖地の長の甥にあたられる……」
「ウラート卿、私は気にしていないよ。それに剣の稽古相手に肩書きなどいらぬだろう? それで、シーディとやら。お前の剣の腕はリュ・リーンの保証済みだということだが、期待させてもらって良いのだろうな?」
最初の驚きが去ると、カストゥール候はふてくされて口を尖らせる相手の様子にもまったく動じることはない。彼は鞘に収まった刀身を抜きはなって不敵な笑みを浮かべた。
「お貴族様にオレが負けるかよ。こっちは物心つく頃から、ずっと傭兵稼業で喰ってきたんだ」
同じようにシーディが肩に担いでいた剣の鞘を払う。元から好戦的な彼の態度で剣を抜かれると、それだけで辺りには不穏な空気が充満した。
「シーディ。リュ・リーン殿下からのお言葉を忘れるなよ。失敗したら、ただでは済まないぞ!」
ウラートは剣を構えた二人から遠ざかると、小さくため息をついた。
リュ・リーンがシーディに課した命題は無理難題に近い。剣の稽古をするのに怪我を負わせるな、というのだ。それなのに手を抜くなとも言う。そんな条件の中で稽古の相手をするなど、よほど剣の腕がよくなければ無理な話だ。
かけ声も鋭くシーディが相手に突っ込んでいく。傭兵で喰っていたというだけあって動作は俊敏だ。体格の割には小回りが利く。
動き回る相手を目で追いかけるカストゥール候が、シーディの足下を剣で薙ぎ払う。が、その切っ先が届くよりも先にシーディは別の場所へと移動していた。
シーディが繰り出す鋭い突きがカストゥール候の剣と絡み合うたびに、防御魔法の呪文がかけられている剣は細かな火花を散らす。
どうやらシーディはリュ・リーンに言われた通り、相手の身体を切っ先がかすめることなく剣を合わせているようだ。依頼された仕事はキッチリとこなす人種なのかもしれない。
ウラートは二人の攻防をじっと見守りながら、シーディの認識を少しだけ改めた。文句をダラダラと並べるだけの怠け者であったら、即刻お払い箱にしてやろうと思っていたのだが、剣の腕前は使えそうだった。
もっとも、ウラートが気づいたくらいだから、リュ・リーンも同じように考えているだろう。きっと過去の自分以上に短気な男の様子に、苦笑いを浮かべながらリュ・リーンは夏の間、シーディの様子を観察していたに違いない。
シーディが何度もカストゥール候の剣の切っ先を叩き、相手の刃の軌跡を狂わせる。体勢を狂わされるたびに、カストゥール候が苛立ったように舌打ちを繰り返していた。
候が何度目かに切っ先を跳ね上げられたとき、シーディがふわりと身を沈め、相手の懐へと飛び込んでいった。
あっと思う間もなく、カストゥール候は足を払われ、その場にひっくり返った。地響きこそ聞こえなかったが、強かに背を打ちつけたらしく、彼は顔を歪ませて痛みをこらえている。
「弱すぎるぜ。これじゃ、話にもならんだろう。ここの貴族はトゥナの奴らよりも軟弱なのかよ」
カストゥール候の喉元に切っ先を突きつけ、シーディはうんざりした様子で口を開く。彼にしてみれば、随分と手加減しているのだろうが、その不遜な態度にウラートは慌てた。
「シーディ。剣を引かないか。それ以上、粗暴な口を利くことは許しませんよ。この方は殿下の義兄君になられる方です!」
忌々しそうに舌打ちするシーディを押しのけると、ウラートは膝をついてカストゥール候に手を伸ばした。が、当の相手は伸ばされた手を遮ると、よろけながらも自力で立ち上がった。
「余計な気遣いは無用だと言ったはずだ。もう一本、手合わせ願えるかな?」
「いえ、カストゥール候。次の相手は私です」
「ウラート卿、貴卿がわざわざ私の手ほどきか? リュ・リーンの補佐をしなくていいのか? あれは一人で大変だろうに」
自分の剣を掴み直すと、カストゥール候が首を傾げた。ウラートをリュ・リーンの片腕と認識している辺り、やはり彼も聖地の貴族らしくトゥナの内情をよく把握している。
「今日だけはこちらを優先するよう、殿下から命じられております。シーディとの立ち合いの次は、私が相手をさせていただくようにと。その後、またシーディと手合わせください。明日からは彼一人がお相手させていただきます」
「判った。……リュ・リーンが何を考えているのか知らんが、それが役に立つのならお願いしようか」
「では、ウラート・タウラニエスク、お相手つかまつる」
カストゥール候が構えると同時に、ウラートも自身の剣を眼前に構えた。リュ・リーンに命じられた通りに動かねばならない。頭のなかで動きを反芻しながら、ウラートは相手の動きを目算した。
やや離れたところからやり取りを見ていたシーディが、さも退屈そうに石造りの椅子に座り込んだ。暢気にあくびをしている。
その様子を視界の隅に捉え、ウラートは先ほどシーディの評価を上げた自分に悪態をついた。やる気のなさそうな彼の態度は気に入らない。何ごとも真面目に取り組むウラートには、シーディの態度は腹立たしいばかりだった。
かけ声と共に、カストゥール候が切り込んでくる。切っ先をさばいて相手の攻撃をいなすと、ウラートは腕を鞭のようにしならせて反撃を加えた。
叩き込まれた刀身の重さに、カストゥール候が顔を歪める。剣圧の相当な重量が彼の腕に痺れを刻んだはずだ。
ウラートはその隙を逃すことなく相手との間合いを詰めたが、突きなどの攻撃は加えず、相手の刀身を叩いてカストゥール候を挑発した。
「なぜ攻撃しない。今の隙を突けば、貴卿の勝ちだったはずだぞ?」
「おや。まだしゃべる余裕がありますか、カストゥール候。……ですが、稽古の間にそんなことをしていると、すぐに息が上がりますよ」
会話をしながらの稽古は確かに呼吸を乱す。それはカストゥール候にしても判っているのだろう。すぐに口をつぐむと、ウラートの動きを牽制するように左右から剣を奮った。
ウラートは加えられる攻撃をすべて自分の剣で受け止めると、時折、相手との場所を入れ替わるくらいで派手に動き回ることはしない。ただ、小刻みに体重の重心を移動させるため、身体のどの部分に攻撃が加えられても、すぐにそれに対応できた。
剣同士が打ち合わされる音ばかりが中庭にこだまする。三人の他にこの場所に居合わせていないが、音の騒乱はきっと他のどの場所よりもやかましいだろう。
カストゥール候の息が上がり始めた頃、ウラートはようやく動きを見せた。
動きが散漫になっている相手が剣を大振りしたところを、素早く相手の柄元に突きを入れる。刀身が受けるはずだった衝撃を柄に直接加えられ、カストゥール候が剣を取り落とした。
ピタリと相手の眉間に切っ先を合わせて動きを封じると、ウラートはホッと吐息をもらす。なんとかリュ・リーンに言われた通りの動きをすることができた。
「なぜ、途中から攻撃をしてこなかった。本当ならもっと早く決着がついていたはずだ」
荒い息の下からカストゥール候がウラートに詰問する。息を乱していない相手の余裕に腹立たしさを感じているのか、彼は自分の呼吸を元に戻そうと何度も肩をいからせていた。
「カストゥール候。私がどんな動きをしてあなたの攻撃をかわしていたか、憶えておいででしょうか?」
「どんな動きで? どんなも何も、貴卿はほとんど動かずにいたではないか。こちらは隙を見つけようと周囲を走り回っていたというのに」
「そうですね。私はほとんど動いていない。だから呼吸も乱れてはおりません。あなたは息が乱れて、足もふらついているというのに……」
カストゥール候が怪訝な表情でウラートを見つめる。彼が言わんとしていることがいまいち飲み込めていないようだ。
「無駄な動きが多すぎるってことさ。力任せに剣を振り回していたんじゃ、何人も相手にできないぜ」
カストゥール候が首をひねり続けていると、横からシーディが割り込んできた。端から見ていた彼には、ウラートが何をやっていたのかよく見えていたのだろう。
「何人も……。勝ち抜き戦のための戦術か?」
「えぇ。たった一人と戦うのでしたら、後のことなど考えなくても良いでしょう。でも一日に複数名と戦う場合、無駄な体力を使わないことも大切なことです。相手の力を利用して自分に有利な体勢にもっていく……もっとも有効な手段だと思いませんか?」
「だから今日の稽古は二人がかりというわけか」
カストゥール候がかすかな笑い声をあげた。一見すると冷たい印象を与えがちな彼の表情が、今は人懐っこい温もりを滲ませている。
「あんた、そっちの顔のほうが女にもてるぜ? 取り澄ました顔ばかりしてないで、笑ってりゃいいじゃないか」
「シ、シーディ! 失礼なことを言うんじゃありません!」
「なんだよ、本当のことだろうが。眉間に皺寄せていたんじゃ、せっかくの美男子が台無しだぜ。もったいねぇよ。この顔なら女にもてるだろうに」
二人のやり取りにカストゥール候がクスクスと笑い声をあげた。
先ほどの笑みよりも素直な印象を与える態度に、ウラートは主人の婚約者の微笑を思い出していた。確か、彼女もこんな透明感のある笑い方をしたはずだ。やはり兄妹は似ているものだと、変なところで納得をする。
「二人とも実にウマが合うようだな。リュ・リーンも退屈せずに済むだろう」
「冗談じゃねぇ。こんな陰険な奴と一緒にしないでもらいたいね」
「……お互い様じゃないですか。私だって一緒にしてもらいたくありませんよ」
互いに勝手なことを言い合いながら、彼らは再び剣を手にした。それが生き物を殺生する道具でなければ、のどかに談笑しているようにしか見えない風景であった。
白い指先が弦を震わせるたびに、彼のなかにさざ波がうち寄せてくる。
リュ・リーンは目の前で竪琴を奏でる恋人をじっと見つめていた。以前までならその音色にウットリと聞き惚れていただろうが、トゥナの王宮で父親に竪琴の意味を教えられて以来、彼女がつま弾く調べを純粋に楽しめなくなっている。
落ち着きなく身じろぎしながら、それでも恋人から目をそらすこともできず、リュ・リーンは内心の葛藤と戦っていた。この場所、リュ・リーンの自室に二人きりというが良くないのだ。
予定よりも早く大神殿長との接見が終わったため、ダイロン・ルーンの剣の稽古を見に行こうかと思っていた矢先、トゥナ王国のために割り当てられた建物棟の入り口付近で、竪琴を抱えたまま右往左往しているカデュ・ルーンに出くわした。
どうしたのかと思えば、兄ダイロン・ルーンが今日の稽古相手を気に入らなかったらどうしようかと、彼女一人が気を揉んで様子を伺いに来たらしい。こっそりと稽古の様子を確認させると、彼女はホッとした様子で胸をなで下ろした。
そのままなし崩しにリュ・リーンはカデュ・ルーンを自室へと案内すると、他の従者たちを遠ざけて、彼女の奏でる音色に耳を傾けているというところだった。
一曲弾き終わったカデュ・ルーンが、それまでの真剣な顔つきをほころばせてリュ・リーンに笑いかける。たったそれだけの仕草にも、リュ・リーンは心臓を踊らせた。
「カデュ・ルーンは楽の才能があるのだな。俺はそちらの才はサッパリだけど、それでも音色の美しさは素晴らしいと思うよ」
「ありがとう。お世辞でも嬉しいわ」
「お世辞じゃない。本当にそう思うから……」
自分の言いたいことの半分も言葉にできない。リュ・リーンはもどかしげに唇を噛みしめた。胸の奥で焦れるように炎が揺れている。気を抜くとその熱に呑み込まれそうだった。
「リュ・リーンは楽器を扱わないの?」
「あぁ、全然駄目なんだ。それに……今まであまり興味もなかったし」
決まり悪げにリュ・リーンは視線をそらす。
これまで、教養として一通りの詩楽の知識は学んでいるが、彼はそれを自分のものにはしなかった。あくまでも、一般的な知識として扱ってきた。
「今は興味がある?」
「少し……。聴くほうなら」
その言葉にカデュ・ルーンが笑みを浮かべる。竪琴を脇に置いて立ち上がると、ヒラヒラと舞うような足取りでリュ・リーンに近づき、ストンとその隣りに腰を落ち着けた。
リュ・リーンは甘い花の香りに目眩を起こしそうだった。カデュ・ルーンはカリアスネの精油を髪や衣装に振りかけているらしい。彼女の本来の体臭と混じり合ったその香りは、リュ・リーンの脳髄を痺れさせる芳しさだった。
「リュ・リーンはどんな楽が好きなの?」
無邪気な瞳でリュ・リーンの顔を覗き込むカデュ・ルーンには、彼がどれほどの忍耐を強いられているか判っていないようだ。
「優しい、綺麗な音色が……」
「あら。男の人は賑やかなものが好きって人が多いけど、リュ・リーンは静かなものがいいのね」
リュ・リーンは少女の赤いカリアスネの唇をじっと見つめる。笑みの形に口角を持ち上げた唇は、風に震える花弁そのものだった。
他の女たちと違ってカデュ・ルーンは化粧の類をあまりしない。そんなものは必要ないほど、彼女の肌は輝きを放っていた。花のような唇も艶やかな光を浮かべている。
「賑やかな音楽が相応しいときは、そちらを好むだろうけど。カデュ・ルーンの奏でる調べを聴くのなら、静かなもののほうがいい……」
「嬉しい。わたしも静かな楽を弾くほうが好きだもの」
彼女の姿に魅入られそうになり、リュ・リーンは引き剥がすように視線をそらした。心臓は先ほどから忙しなく鳴り響き、その音が彼女の耳にも届くのではないかと心配になる。
竪琴をつま弾く彼女を目にした途端、父王の言葉が頭を駆け巡り続け、振り払っても振り払っても消えてくれなかった。昨日も彼女とは顔を合わせているはずなのに、身体はなんとも正直だ。
少しでも身体を離そうとするのだが、彼女のほうが甘えるようにすり寄ってくる。リュ・リーンは自制がどこまで効くのかまったく自信がなくなっていた。いや、限界などとうに過ぎていたかもしれない。
「王都でも、今日みたいにわたしの竪琴の音色を聴いてね」
今の一言に、リュ・リーンの理性は吹っ飛びかかった。残骸のようにボロボロになった理性をかき集めて、なんとか平然とした顔を取り繕ってみるが、もう少しでも彼女に触れたりしたら、自分でもどうなるか判らない。
それなのに、カデュ・ルーンは白い指をリュ・リーンの黒い前髪に絡ませ、彼の額をサラリと撫でたのだ。
「カデュ……」
リュ・リーンは自分の理性や自制の糸がプツリと切れる音を聞いた気がした。
かつて自分が女に振り回されている貴族どもを嘲笑っていたことも忘れ、彼は目の前の少女を腕のなかへ抱きしめると、緩やかに結い上げられた彼女の髪に顔を埋めた。
「リュ・リーン。痛いわ。お願いだから、腕を緩めてちょうだい」
カデュ・ルーンの苦しげな声にリュ・リーンはハタと我に返り、そろそろと腕を緩めた。彼女が抱きしめられることを嫌がっているのかと、怯えに身体が強ばる。
しかし、視線を絡めたカデュ・ルーンの表情に不満は浮かんでいなかった。それどころか、今までと変わらない柔らかな微笑が刻まれ、目元を薄赤く染めている。拒絶されているのではないと判ると、彼は内心で意味もなく喝采した。
リュ・リーンは引き寄せられるようにカデュ・ルーンの上に屈み込み、何度味わっても甘く柔らかい彼女の花唇を奪った。
幾度も唇をついばみながら寝椅子に彼女を横たえると、無骨な大剣を扱う手とは思えない慎重な手つきで彼女の胸元を緩めていく。口づけに酔っているのか、カデュ・ルーンはまったく気づいた様子がない。
衣装の胸元を広げた途端、再びリュ・リーンはカリアスネの香りに包まれた。決して押しつけがましくない香りだが、今はそれに絡みつかれ、身体の動きを封じられそうだった。
ようやく唇を放して顔をあげたリュ・リーンは、息苦しさに自分の襟元をくつろげた。目の前に覗く彼女の白い肌に目眩がしてくる。
「カデュ・ルーン……」
声がかすれている。これほど緊張したのはいつ以来だろう。心臓の鼓動がこめかみにガンガンと響いてきた。
間近にあるカデュ・ルーンの若葉色の瞳が、熱をもって潤んでいる。それを目にしただけで、リュ・リーンの神経は酩酊したように痺れてきた。
再び花唇に口づけを落とし、さらに喉元や胸元にも、触れるか触れないかといった口づけを繰り返す。すぐそばでカデュ・ルーンの不規則な息遣いを聴きながら、リュ・リーンは恋人の胸の谷間に赤い花弁を散らせた。
リュ・リーンが口づけを落とすたび、カデュ・ルーンが鋭く息を呑み込んだ。何かを堪えるように顔を背ける彼女の頬に、幾筋かの銀髪が張りついている。
泣きだしそうな表情をして唇を噛みしめているカデュ・ルーンに気づくと、リュ・リーンはなだめるように彼女の唇を指先でなぞった。
「カデュ・ルーン。泣かないでくれ」
まだ声はかすれたままだ。幾度か唾を呑み込んだが、声は喉の奥に貼りついてしまったような気がして出しづらい。
もう一度、カデュ・ルーンの柔らかな唇に自分のそれを重ねようと、リュ・リーンが彼女に覆い被さったとき、遠くから複数の足音が聞こえてきた。
従者たちは遠ざけておいたはずだが、何ごとかが起こったのかと、リュ・リーンは反射的に身体を起こした。耳を澄ますと、間違いなくこの部屋に近づいてきている。
扉を振り返るリュ・リーンの様子に、カデュ・ルーンも胸元を押さえたまま身体を起こした。自分の胸元に散る鬱血を目にすると、真っ赤になりながら衣装の襟元を直していく。
足音が部屋の前で立ち止まり、一瞬の間をおいて扉が叩かれた。
「誰だ?」
「ウラートです、殿下」
「……開いている。入れ」
肝心なときに邪魔が入った。いつもは頼りになるウラートの声が、今この時ばかりは恨めしい。リュ・リーンは感情を押し殺したつもりだったが、声は不機嫌さを含んでいた。
「失礼します」
扉を開けて入ってきたウラートが、室内にリュ・リーン以外の人影を認めて目を見張った。すぐに視線を伏せると、決まり悪げに頭を下げる。
「すみません。出直して参ります」
「何か用があったから来たのだろう。かまわないから……おい、シーディ。何を笑っている?」
ウラートの後ろから入ってきたシーディが、口元を歪につり上げていた。視線はリュ・リーンとカデュ・ルーンを交互に行き来している。
「いや、なに。大した用でもないのに、えらいところを邪魔したようだと思ってさ。まさかお大事なご主人様が乳くりあっている最中だとは思わなかったぜ」
「シーディ! 無礼ですよ! 控えなさい」
リュ・リーンの眉間に微かな皺が寄ったのを、ウラートは目ざとく見つけていた。王子が内心では怒り狂っていることを、長年のつき合いで察したのだ。
「ウラート。用件はなんだ?」
氷のように冷たい声がリュ・リーンの口から漏れる。彼の背後ではカデュ・ルーンが頬を染めたまま顔を背けていた。
「いえ、申し訳ありませんでした。出直して参ります」
「なんだよ。話してもいいって言ってるんだから、言えばいいじゃないかよ。何を遠慮して……」
あたふたとシーディの口を塞ぎ、王子の部屋から引きずり出すと、ウラートは彼に珍しいほど狼狽して部屋を飛び出していく。
それを鋭い視線で見送ったリュ・リーンだったが、彼らが出ていった途端、ガックリと肩を落としてため息をついた。今さら先ほどの続きをする雰囲気ではあるまいに。
そっと振り返ってカデュ・ルーンを見ると、耳元まで真っ赤になって身体を小さくしていた。慌てて崩れた髪を整えたので後れ毛が乱れている。
その姿は見ようによっては扇情的だったが、部外者にからかわれて萎縮してしまってる彼女に、これ以上先を求めるのは酷というものだった。
「すまない、カデュ・ルーン……。あなたに恥をかかせるつもりはなかったのに……」
彼女の華奢な肩をそっと抱き寄せると、リュ・リーンは白い滑らかな額に口づけしながら、何度も彼女に部下たちの非礼を謝罪した。
「平気よ。少し驚いただけ……。お二人をあまり叱らないでね」
健気に平静を装うカデュ・ルーンの態度に、リュ・リーンは愛しさと同時に苦い想いを噛み締める。
これは自分の落ち度だ。リュ・リーンは自制が効かなくなった自分の弱さに、内心で悪態をつき続けていた。
ダイロン・ルーンがトゥナ王家の建物に付属する中庭で剣の稽古をするようになって間もなく、各国の特使たちが続々と聖地へと到着した。王自身がこの地へやってくることはないようだった。
「リュ・リーン。オフィディア伯が到着されました」
ウラートは王子の私室に入ると、表情を引き締めて報告した。書記机の前で羽根ペンを走らせていたリュ・リーンが、鋭い視線を投げ返してくる。
開け放された窓から差し込む春先の日差しが床に反射し、王子の青白い肌に淡く鈍い光の陰影を浮かび上がらせていた。まるで幻想の中にいる神のようだ。
「当然、ギイ伯も一緒にだな?」
「言うまでもなく……。オフィディア伯がご挨拶したいとのことですが、逢われますか?」
「ラスタ・リーン姉上の葬儀以来だな。……通してくれ」
「弟君もご一緒なのですが?」
ウラートはリュ・リーンの表情に怪訝そうな色が浮かぶのを、じっと見守っていた。王子の微妙な表情の変化を見逃すまいと、ウラートはこういうとき、息をするのも忘れて見入ってしまう。
「ランカーンが、か?」
「……いえ。ドワティス殿です」
「ドワティス? あいつならまだ子どもではないか。こんな場所に連れてくるとは……。サイモスの奴、いったい何を考えているのやら」
オフィディア伯サイモスには二人の弟がいる。異母弟ランカーンとは五つ違いだが、今回聖地に一緒に連れてきた弟ドワティスとは十八離れており、下手をすると親子と間違われることもあるほどだ。
年の離れた末っ子は、同腹ということもあるのか、サイモスに可愛がられているようだった。
「ランカーン殿を牽制するために同行させたのかもしれませんよ。オフィディア家は、今のところサイモス殿とランカーン殿の二つに分裂しかかっていますからね」
ピクリとリュ・リーンの眉間に皺が寄る。それをウラートは見逃していないが、表面上は涼しい顔をして相手の出方を待った。
「俺のせいだとでも言うつもりか? ランカーンを手駒に引き入れたのは間違いだったとでも?」
「いいえ、そうは申しておりません。ただ、サイモス殿にしてみれば、跡取りの子どもがいない以上、自分と同腹の弟を後釜に据えたいところでしょう。ランカーン殿は有能ですが、これまでは疎遠でしたしね」
リュ・リーンが苛立った様子で右手親指のツメを噛む。その仕草は子どもっぽいから止めたほうがいいと何度も注意しているが、ウラートの忠告はこれまで聞き入れられることはなかった。
「ギイ家とサイモスが接触した様子はあるか?」
「探りを入れてみましたが、どうやら個人的には逢っていないようです。しらばっくれているのかもしれませんが」
「やはり本人に逢うのが一番手っ取り早いようだな。サイモスたちを通してくれ」
ウラートは軽く頭を垂れた後、きびすを返して廊下へと歩み出た。室内の明るい中から廊下へ出ると、目が馴れるまで薄暗く感じる。一瞬の目眩にウラートは壁に手をついたが、すぐに姿勢を正して真っ直ぐに控えの間へと歩いていった。
リュ・リーンは相手に向き直ると、暗緑の瞳をすがめた。相手の表情から何かを読み取ろうとするのだが、穏やかに微笑む顔つきからは、自身が予想するような後ろ暗さなどは微塵も伺えなかった。
「どういうことです、義兄上?」
「無理に兄と呼んでいただかなくてもけっこうですよ、殿下。ラスタ・リーンを亡くした今、私はあなたの兄ではないでしょう」
「……判った。質問に答えてくれ、サイモス卿。どうして貴卿が神官職になどつきたいと? しかもトゥナの神殿ではなく、ここ聖地の神殿で、とは」
表面上、リュ・リーンは無表情を保っていたが、内心では相手の申し出がどうにも釈然としなかった。目の前の相手オフィディア家の当主が、当主の座を退いて神殿に籠もると言い出したのだ。
従者に運ばせた金芳果酒を一口飲み下すと、リュ・リーンはほっと一息ついた。
「子どもの頃からずっと思っていたのですけどね。私は父の言いつけで当主の座に就きましたが、今までどうにも馴染めずにいたのです。妻のラスタ・リーンも亡くなったことですし、この際は俗世を捨てるのもいいかと。それに、どうせ神殿に入るのなら、しがらみのないアジェンの地にしたほうが良いですし……」
「だからドワティスを自分の後に就けよ、と?」
「まさか! ドワティスもこの春で九つになりますが、こんな小さな子が当主では家の者も心許ないでしょう。私の跡にはランカーンを就けようと思っています。ここへ来る前にあれにも話をしてきました」
訥々と話を続けるサイモスの様子にリュ・リーンは肩をすくめた。当初は弟たちの権力争いの片棒を担ぐつもりでやってきたのかと思っていた義兄は、それとはまったく反対のことを頼みにきたようだ。
「だったら俺の出る幕などないではないか。貴卿の望み通りにしたらいい」
「それがそうもいかないのですよ。家の者の中にはランカーンを当主にしたくない者もおります。私の跡にドワティスを、という声も出ているのです。このままではオフィディアは分裂してしまいますのでね。殿下のお力でどうにかしていただこうと思いまして」
「どうにか? 伯爵家のことに口出ししろというのか」
呆れてリュ・リーンはため息をつく。それぞれの家のことは、その家の中で処理するものだ。他の家の者に決定権を与えてどうするつもりだというのか。いつもボンヤリとしている義兄だが、今回の話は特に常識はずれだった。
当のサイモスはいえば、ドワティスの飲み物として出された花蜜水を弟の手元に運んでやったり、頬についた花蜜を拭ってやったりと、過剰なほどに末弟の世話をしてやっている。
「俺が口出しすればするほど、オフィディアの家の者は頑なになるのではないか?」
「えぇ、単にランカーンを当主にしたのでは、軋轢が増えるばかりです。ですから、こうしてドワティスを連れて参ったのですが」
何が言いたいのかさっぱり要領を得ず、リュ・リーンは目の前の男と、その膝の上で大人しくしている少年をまじまじと見つめた。
サイモスの膝に座っている少年は同年代の子よりやや小柄であるが、手取り足取り世話を焼いてやるほど幼くはない。さすがに一人で生計を立てるほどの年齢でもないが、サイモスの愛情の注ぎぶりは過保護にすぎた。
リュ・リーンは父王の過剰な愛情表現を思い出して目眩を憶えた。どうやら父シャッド・リーンはこのオフィディア家の血を濃く受け継いでいるようだ。特徴的な金髪だけでなく、近しい者に示す愛情の表現は端から見ていると気恥ずかしくなってくる。
「サイモス卿……俺には話がさっぱり分からないのだがな」
当主の座に就く者はすでに決まっているという。だが、周囲の者を納得させるために、王太子であるリュ・リーンに手を貸せとも言っているのに、そのために目の前の少年を連れてきたと?
「はて。簡単なことだと思ったのですが……。不肖の弟たちのうち、ランカーンは私の跡を継いで当主に、そして末の弟は殿下のお側で養育していただけるように、と思った次第でして」
「はぁ!?」
リュ・リーンは今まで取り繕ってきた無表情を崩すと、マジマジと目の前の男の瞳を覗き込んだ。何を言い出すのかと思えば、末の弟を人質として王太子に差し出すと言っているのだ!
「自分が何を言っているのか、判っているのだろうな? 俺がランカーンとドワティスを使ってオフィディア家の分裂を謀ったらどうするつもりだ、サイモス卿」
「それができるようでしたら、殿下はランカーンを使って、とっくにオフィディアを潰していらっしゃると思いますが?」
ニッコリと極上の笑みを浮かべたサイモスの表情に、リュ・リーンは目眩を感じてクラクラした。外見上はぼんやりしている男だが、実は中身は相当な切れ者なのではないか?
そういえばランカーンが初めて目の前に現れたときも、同じように華やかな笑みを浮かべていた、とリュ・リーンは頭の隅で思い出した。もっとも、ランカーンの場合は下心がバレバレの笑みであったが。
華やいだ笑みは父王シャッド・リーンも同じように浮かべることが多い。父を産んだ母親がオフィディア家の先々代傍系当主の妾腹の妹であったことを考えれば、この微笑みは血筋なのかもしれない。
「ドワティスは誰に対しても威力のある秘石と同じでしょう? オフィディアの家の者には担ぎ上げたい次期当主。ランカーンには伯爵家当主の座を脅かす後継者。そして……ギイ伯に対しては、殿下の権威を見せつける存在」
「そんな大事な弟を俺に簡単に預けようというのか?」
「大事な弟なればこそ殿下にお預けいたします。殿下の忠臣として、お育ていただければ幸いでございます」
じっと口を閉ざしたままのドワティスが、兄の言葉にチラリと振り返った。その豪奢な金髪をそっと撫でながら、サイモスは再び華やかな笑みを浮かべる。
二人の様子を見守っていたリュ・リーンが小さくため息をついた。目の前にいる者には気づかれないようについたつもりだったが、視線を上げたサイモスがさらに笑み崩れた様子を見ると、彼には気づかれてしまったのかもしれない。
「俺に厄介事を押しつけて、自分は隠居する腹づもりですか、義兄上?」
「あぁ、まぁ……。そうとも言えますね」
あっさりとサイモスが認めたことで、リュ・リーンは今度こそ苦笑いを浮かべた。
「ドワティス。お前はどうなのだ? 兄と別れて、一人で俺のところへ来るつもりか?」
ようやく自分に話が振られた少年が、こちらも華やかな笑みを浮かべてコックリと頷く。
リュ・リーンは首を傾げて少年の蒼紺の瞳を覗いた。先ほどから少年は一言もしゃべろうとしない。今も答えは頷くだけだ。
「殿下……生憎とこの子はしゃべることができません。笑い声をあげることはありますが、声を発声することができないのです。今までは外部に漏らさないようにしてきましたが。私がこの子を跡取りにしなかった理由の一つですよ」
リュ・リーンは驚きに目を見張った。外見上はドワティスは普通の子どもと変わらない。それなのに彼はしゃべることができないという。知らなければ、そのまま過ぎていってしまうだろう。
「そうか……。九年もの間、隠し通してきたということか」
「ラスタ・リーンが庇ってくれなければ、オフィディア家の者によってこの子はとうの昔に抹殺されていたでしょう」
サイモスはようやく自分のために用意された酒を口に運んだ。喉を潤したくなったのだろう。一気に杯の半分量を干した彼は、満足そうにため息をついた。
「ランカーンは野心家ですからね。この子を任せるには、いささか抵抗があります。ならばいっそのこと、ランカーンや家の者を抑えることができる殿下に引き取ってもらったほうが、この子にも良いかと思いまして」
杯を机の上に戻したサイモスが、伏せていた視線を真っ直ぐに王子へと向ける。口元には華やいだ笑みが浮かんだままだが、サイモスの瞳は真剣そのものだった。
「判った。望み通り引き受けよう」
相手の眼差しに、リュ・リーンはしっかりと頷き返した。サイモスが持ってきた話は、決してリュ・リーンの不利益になるものではない。むしろ相手からの提案があったように、オフィディアという家を抑える駒の一つになり得る。
「ありがとうございます。……ほら、ドワティス。お前からもお礼を申し上げなさい」
リュ・リーンの瞳をまじまじと覗き込んでいた少年が、パッと艶やかな微笑みを浮かべて頭を下げた。言葉を発することができない彼なりの感謝の意なのだろう。
「あ~……。それから殿下。この子はラスタ・リーンにここまで育てられたようなものですので……その……あなたの瞳を怖がることは……ありません。むしろ、妻から聞いた寝物語のせいで……殿下にまとわりつくかもしれないのですが……」
「……どういうことだ?」
次姉ラスタ・リーンが自分を可愛がっていたことは知っている。その姉が世話をしていた子どもならば、人から怖れられる魔の瞳を持つリュ・リーンを怖れることのない子に育てたかもしれない。が、それがまとわりつくこととどう関係してくるというのだろうか。
「その……殿下の瞳は、死の王の瞳ですから……」
「だから……?」
急に歯切れの悪くなったサイモスの様子にリュ・リーンは眉をひそめた。姉はいったい自分の瞳をどのように説明したというのだろうか。
「あの……妻と……ラスタ・リーンと逢いたくなったら、橋渡しをしてくれる瞳だと……」
リュ・リーンは目を剥いた。確かに死の王は死者を冥界へと連れていく者だが、死者と生者を引き合わせるための神ではない。姉は神話を激しく曲解して、目の前の子どもに教え込んでいたらしい。
そのとき、少年が兄の膝から滑り降りると、王子の足下にうずくまった。じっとリュ・リーンを見上げてくる蒼紺の瞳には、抑えがたい希望の光が浮かんでいる。
「ま、まさか……俺にラスタ・リーン姉上を呼び出せる力があると思っているのか?」
「その……まさかでして……」
そんなことができるはずがない。が、できないとむげに断るには、足下の少年はあまりにも純粋な瞳を向けてくる。できないと知ったときの、彼の落胆ぶりがありありと判るだけに、おいそれとそれを口にすることはできなかった。
「サイモス卿……。どうして訂正しなかった?」
「訂正したのです。ですが……まったく聞き入れませんで。こうなったら、殿下ご本人から言っていただいたほうが良いかと……。申し訳ありません」
あまりの申し出にリュ・リーンは頭を抱えた。よりによって、自分がそんな因果なことをしなければならないとは。
だが、他の者の言葉を目の前の少年が受けつけるとは、到底思えなかった。今まで側にいた者が死に、もう二度と逢えないという哀しみは大人でも信じたくないことだ。
チラリとリュ・リーンが足下を見下ろすと、少年は期待に胸を膨らませ、さらに瞳をキラキラと輝かせて、こちらをじっと見上げている。
この瞳が自分の言葉一つで曇ってしまうのかと思うと、リュ・リーンはとても本当のことを伝える自信がなかった。
「ドワティス……」
困惑した表情でリュ・リーンは少年の肩に手を置いた。
華やいだ微笑み向けてくる少年の表情を見るにつけ、姉の突拍子もない世話の仕方が恨まれる。どうして姉は嘘などついたのだろう。リュ・リーンに神の真似事などできるはずがないのに。
戦場では命乞いをする敵を無慈悲に殺しているというのに、何の力もない目の前の少年を傷つけることができず、リュ・リーンは途方に暮れてため息をつくばかりだった。
「ドワティス。今のお前では、ラスタ・リーン姉上に逢うことはできない……」
少年の表情が見る見るうちに強ばり、輝いていた瞳が曇っていく。その様子にリュ・リーンは慌てて言葉を繋げた。
「ただし、お前が立派な大人になれば、その願いは叶うだろう」
「で、殿下。それは……!」
傍らでハラハラしながら見守っていたサイモスが息を飲んだ。
それをリュ・リーンは流し目で制すると、再び少年に向き直って、相手の瞳を覗き込む。失望に曇っていた少年の瞳が再び光を取り戻していた。
「いいか。逢えるのは立派な大人になった者だけだ。お前はどうだ、立派な大人になれるのか?」
少年は一生懸命に首を縦に振っている。亡くなった者と再会できるという希望がある限り、彼は諦める気はないようだった。
「オフィディアの者は十四で成年だったな。では、これから五年間、俺が言う通りに身体を鍛え、知識を身につけることだ」
さらに少年は大きく頷き、嬉しそうに破顔して兄に飛びついていった。
二人のやり取りを見守っていたサイモスは、弟を受け止めながら困ったように王子と弟を見比べる。
「あの……殿下……」
「今は何も言うな……。今後の対策をどうするかは、追々に考えるから」
リュ・リーンは大きなため息をつき、肩を落とした。前途多難な気がする。純粋無垢に育てられた少年は、相手を疑うということを知らない。
少年はリュ・リーンを全能の神か何かのように思っているようだ。どうやって死者と生者の境界線を教えたものか。
外見よりも幼い心を持つ少年の姿を見守りながら、リュ・リーンは先行きの不安に頭を抱えざるを得なかった。
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