混沌と黎明の横顔

第19章:白月の惑乱 3

 用意されていた器は東方の品らしく、この国ではあまり見かけない形だった。王国で使用される杯ならもう少し深いのだが、公女に手渡した器は見慣れた杯の半分ほどの丈しかない。しかも器の口の広さと脚の細さが極端だ。
 両手で器を受け取ったフォレイアが口許に器を持っていこうとしている。が、指先は震え、思ったように水を飲めずにいるのを見ては、手助けするしかないとジャムシードは判断した。たぶん薬煙の影響が残っているのだ。
 公女の後ろから抱きしめるように腕を回し、彼女の両腕に沿うように手を添えて器の縁を赤い唇に押し当てた。
 掌から伝わる公女の腕はまだ小刻みに震えている。混乱していた意識は落ち着いたらしいが、まだまだ予断は許さないと思えた。完全に薬が抜けるまでに、果たしてどれくらいの時間がかかるのだろうか。
 流し込まれた水が白い喉を通っていく様子を間近で見つめながら、ジャムシードは浅いため息をそっと漏らした。
 先ほどまで頭に響いていた声が聞こえないだけで、妙に辺りが静かに感じられる。それが錯覚なのだと理解できても戸惑いは消えなかった。
「もっと……。お水、ほし……い」
 まだ足りなかったらしい。唇に残った水滴すら舐め取ろうと、公女の赤い舌が唇の間から覗いた。蠢く舌先が妙に扇情的で、ジャムシードは思わずその動きを凝視する。が、すぐに視線を反らして水差しから器へと水を注いだ。
「ゆっくりと飲めばいい。誰も取ったりしないから」
 薬煙の副作用で喉でも渇くのか、それから何度もフォレイアは水をねだり、その都度ジャムシードは器に水を満たして彼女に飲ませた。
 満足した公女がもたれかかってきて初めて、ジャムシードは上掛け越しでない彼女の体温を感じた。男に触れられることに恐怖してはいないかと案じて上掛けを使って公女を拘束していたが、それは杞憂だったのだろうか。
 それとも、今はジャムシードを父親と認識してしまっているために、抱きかかえる腕を男のものと認識できないでいるのか判らなかったが。
「疲れていないか、フォレイア。少し休もうか?」
 ナナイが調合する薬がいつ完成するのか判らないが、そう時間は取られないはずだ。がしかし、薬を飲み終わるまでは起きていて欲しくとも、こちらに身を預けてボゥッと窓の外を眺める姿を眼にしては休ませてやりたくなる。
「フォレイア、いったい外に何が見えるんだ?」
 しかし、公女は返事をすることなく空を見上げていた。そこに何があるのかと一緒に覗いても、ジャムシードには何も見つけられない。まるで彼女だけが見える存在があるようで、妙にそわそわした気分になって落ち着かなかった。
 水を飲み終わったのなら抱きしめていた腕を放してもいいのだが、公女の温もりに安堵したジャムシードにしてみれば、手放すのは惜しく、拒絶されないのをいいことに腕の中に閉じこめたままでいた。
 渇きが癒えて満足したからか、フォレイアの横顔は眠そうに見える。今にも船を漕ぎそうな様子に、ジャムシードは自身の肩に彼女の頭を預けさせた。
 そうして大人しくされるがままでいた公女だったが、眠気に襲われている今現在も外へ向ける視線だけは揺るがない。眠さに眼を瞬かせながらも、うすらぼんやりとした色の空を凝視し続けていた。
 相変わらず辺りは静かで、館の外を馬車が通り過ぎていくときだけ遠雷の如く物音が這い寄ってくる。その物音すら小さく、眠気の妨げにはならない。
 公女を眠らせたほうがいいのか、それともこのまま起こしたままでいたほうがいいのか、ジャムシードは迷い続けていた。
 眠気があるのならば眠らせたほうがいいと言う自分と、起こしたままでいて少しでも早く中和剤を飲ませたほうがいいと言う自分とのせめぎ合いである。
 いや、もしかしたら彼女の温もりを手放し難かったからこその迷いかもしれないのだ。それくらいのことを考える理性は残されている。
 グズグズと迷っている間に、廊下の向こうから足音が響いた。他人より耳の良いジャムシードだからこそ気づいた物音だった。
 公女を抱きしめた姿を見られるのは都合が悪い。いらぬ誤解をされる可能性も否定できなかった。となれば、彼女を手放すしかなかろう。
 生きている者の温もりは心の平穏を呼ぶ。内なる存在から目を背けるジャムシードにとって、フォレイアの温もりは現実とを結ぶ絆のようなものだったが、他人にそんなことが判るはずもなかった。
「ジャムシード! お待たせ! 調合がやっと終わったわ!」
 扉を叩く暇すら惜しんで駆け込んできたナナイに、ジャムシードは苦笑を漏らす。病人や怪我人を看るときの彼女は周囲などまったく見えていないことが多かった。今回も礼儀作法や諸々のことは眼中にないらしい。
 ナナイが現れたのは、公女の身体を支えはしても、抱きしめていた状態からは脱した直後だった。だから彼女は今まで部屋を満たしていた空気がどんなものだったのか知らないはずである。
 だがしかし、室内を見回したナナイは眉間に深い皺を寄せて顔をしかめた。
「ジャムシード。公女さまに近づきすぎるのはあまり感心しないわ。あなた、どこかの領主に収まるんでしょ? しかもこぶ付きの女を妻にして。相手がどんな女か知らないけど、夫が他の女と一緒にいて面白いと思う妻はいないわ」
 一瞬、胸に過ぎった痛みに今度はジャムシードが顔をしかめた。
「公女さまを助けるために一緒にいただけだ。それをとやかく言われる覚えはないよ。第一、ティレミーはまだ俺の妻じゃないし、彼女なら公女さまを助けるための措置だと言えば、めくじら立てて怒るような真似はしないよ」
 ジャムシードの反論にナナイが大袈裟にため息をつく。呆れているのがよく判る態度であったが、何をそんなに呆れることがあるのか。
「妻になる女のことを他人であったときと同列に考えては駄目。表面上はどれほど理解を示しても、内心では面白くないと思っているものよ。ましてや、その相手が目も醒めるほどの美人で、上司の娘なわけだし」
 そんな馬鹿な、とジャムシードは呟いたが、ナナイは聞き入れそうもない。せかせかとベッドに近づき、調合した薬を入れた盆を小卓に置くと、調合の仕上げにかかった。手を動かしながら彼女は話を続けた。
「公女さまの容姿は同性には反感を買いやすいかもしれないわね。彼女は我々イコン族の血を引いているから王国人の中では目立つ容姿だわ。イコン族の女は神秘的だと噂されているらしいし、男たちが彼女にその片鱗を見ようと近づいてくることだってあるでしょうしね」
 ナナイの言っていることは半分は正しい。それはジャムシードも賛同できた。
 炎姫家は数代置きにイコン族との婚姻を結んでいるために王族の中でも独特の容姿を持っていた。人によっては神がかった美しさだと言う者もいる。その外見に惹きつけられる者も多かろう。
 ジャムシードも初めて彼女と逢ったとき、神に仕える女神官とはこれほど美しいのかと驚いたものだ。もっとも、本人にそう伝えたことはなかったが。
 ときに人は、手の届かないものに憧れ、同時に妬むことができる生き物だと、ジャムシードはそれまでの経験から薄々気づいていたのだ。
 フォレイアに人の持つ性質について教えてやる必要があるとは思えない。彼女は本能的に他人と自分の違いを察し、親しくしても決して踏み越えさせない一線を引いていた。その距離感がときにもどかしく、また心地よいものであることを、ジャムシードは認めないわけにはいかない。
 ある部分で炎姫公は自分とよく似ている、と思う。他人の距離の取り方があまりにも自分とよく似ていて、ときどき自分がどうしたいのか、彼女がどう捉えているのか判ったつもりになっている気がして、混乱することもあった。
 仕事をする機会が増えれば増えるほど、この混乱は頻発するだろう。そして、同じような距離の取り方に安堵することになるのだ。慣れた感覚を持つ者を見つけた同族意識に引きずられながら。
「とうさま……? この人、だれ?」
 眠そうにしていたフォレイアが忙しなく手を動かすナナイの気配に興味を示した。完全に眠気は去っていないようだが、興味深そうに調合薬の入ったすり鉢を覗き込む。その仕草の幼さが、いよいよジャムシードの同情を誘った。
「遠い親戚だよ。フォレイアの身体の中に入った悪いものを退治する薬を作ってくれたんだ。これを飲めばすっかり元気になるよ」
 公女が首を傾げる。言われた内容を吟味しているのか、薄く眉間に寄った皺が彼女の表情に生真面目さを与えていた。
「飲んだら、ねぇさまのように良い子になる?」
「……フォレイアは悪い子ではないだろう? この薬は身体を治す薬だよ」
 フォレイアの言葉に引っかかりを覚えながらも、ジャムシードにはその違和感の正体が判らない。傍らのナナイが小さくため息をついたことで、公女の状態が芳しいものではないことだけが判っただけだった。
「ジャムシード。公女さまは現実から逃避しているのかも。薬を飲んでも症状が治らない場合、それは彼女の精神状態に問題があるということになるわよ」
「彼女の態度は彼女自身が創り出したものだってことか?」
「その可能性もあるって言ったのよ。薬は幻覚を誘発するものだから、公女さまが幻覚を見ているだけだという可能性だって残っているけどね。どちらにしても、薬を服用した後に一眠りして、様子を見るしかないわ」
 唇を噛みしめ、ジャムシードは眠い眼を擦っている公女を見おろした。もっと早く貰った中和剤を飲ませていたら状況は変わったかもしれない。そう思うと、自分の迂闊さがとても呪わしかった。
 ナナイが差し出した丸薬を大人しく口に含んだ公女が顔を歪める。薬は美味しいものではない。舌に広がる味を楽しめはしないだろう。
 すかさず差し出された水を受け取り、それで薬を飲み干す仕草は普段の公女より子どもっぽい。それが庇護欲を掻き立て、ジャムシードは思わずフォレイアの頭を撫でながら微笑んでいた。
「ジャムシード……。気安く公女さまに触れては駄目だって、さっきも言ったでしょ。あなたの今の態度では彼女と特別な関係にあるように見られても仕方がないわよ。そうなれば後で困ったことになるんじゃないの?」
 そうなのだろうか? 今の自分はそんな風に見えるのか?
 胸に過ぎった痛みを噛み殺し、ジャムシードはナナイに向かって肩をすくめる。決して彼女の忠言を無視したわけではないが、公女を放っておけないという気持ちに従うと、ついかまいたくなってくるのだ。
 門兄たちはそんな彼を「ジャムシードのお節介の虫が騒ぎ出した」とからかったものである。炎姫家に仕える身になったとて、その気質がそう簡単に変わるはずもなかった。きっとこれからも変わらないのではなかろうか。
 だが公女との関係を周囲が邪推するのはいただけない。彼女の立場を悪くする気はこれっぽっちもないのだから。今後は気をつけねば。
「フォレイア、眠いだろう? 横になったらいい。眠るまで側にいてやるから」
 ベッドの端に寄り、ジャムシードが横になるよう促せば、公女は頷き、もぞもぞと上掛けの下に潜り込んでいく。その従順な態度が先ほどまで暴れていた彼女とあまりにも落差があり、ジャムシードは微かな不安に襲われた。
「ナナイ。公女さまは本当に現実逃避していると思うか?」
「まだ判らないわ。判断は彼女が眠りから覚めた後に様子を看てからよ。症状が改善されていなかったら、公女さま自身の問題が大きく絡んでくると思うわ。ただね、改善されていても心の奥底にわだかまっているものがあれば、いずれどこかで何かの形で噴き出すことになるかもしれないわよ」
 囁き交わしていたジャムシードの目の前に白い手が差し出される。
「とうさま。手、にぎってて」
 眠そうな眼であったが、真っ直ぐにジャムシードを見上げた公女が小首を傾げて甘えてきた。咄嗟に両掌を差し出し、彼女の手を包み込む。傍らでナナイがため息をついた。先ほどの忠告を無視されたと思っているだろう。
 希望通りに手を握られて安堵したのか、何度か眼を瞬かせた後にフォレイアはゆるゆると瞼を閉じた。薄い瞼が弱く痙攣しているところをみると、まだ完全には眠りに落ちてはいないようだが、それも間もなく落ち着くだろう。
 とうさま、と囁く公女の声はもうほとんど眠りの中にあった。
 女性にしては少しだけ節が高いフォレイアの指は戦いに身を投じている武人のものである。大公家の跡取り娘だというだけで戦場へと赴く彼女の心理がひどく切なく感じられ、ジャムシードは握りしめる指に力を込めた。
「とう、さま……。かあさまの、おはか……がないの、は……ど、して……」
 眠りの淵に沈んでいきながら、公女はたどたどしい口調で囁く。父親に向けられたであろう問いかけに耳を澄ましていたジャムシードは、彼女の問いの内容に首を捻った。炎姫公妃の墓がない、とはどういう意味だろう?
 ナナイには判るだろうか、と振り向けば、彼女はすでに薬を運んできた盆の上を片付けているところで、公女の寝言を聞いてはいなかったようだった。
 あえてフォレイアの寝言をナナイに伝えるのは抵抗がある。公女に必要以上に近づくなと忠告する彼女が、眠っているとはいえ公女の問いかけにまともな答えをくれるとは思えなかった。
 ジャムシードは片手を離し、そっと公女の頬に貼りついた髪を払いのける。そのまま指先を彼女の髪に絡め、ゆっくりと黒絹の髪を梳いていった。一瞬、公女は身をすくめたが、すぐに身体の力を抜いたのが伝わってくる。
 安心しきっている彼女の姿は無邪気な幼子のようだった。この眠りを妨げる者がいないことを願う。公女の日常は緊張が多すぎる。ジャムシードはそっとフォレイアの手を上掛けの中へ押し込んだ。
「眠っている間も付き添う気かと思ったけど、どうやら杞憂だったみたいね」
 少し棘を含んだナナイの言葉にジャムシードは苦笑を漏らす。確かに公女のことは気がかりではあるが、眠っている間も付き添うとなれば問題が多すぎた。
「俺だってそこまでバカじゃないよ、ナナイ。だけど……」
「判っていればいいのよ。あなたが公女さまを追い詰めるようなことがあってはならないでしょうからね。今後は気をつけなさいよ」
 ジャムシードが多くを語る前にナナイは話を打ち切ってしまう。それが彼女なりの優しさなのか、呆れ果てた末の無視なのか、今のジャムシードではその内心を推し量ることは難しかった。
 立ち上がろうとしたジャムシードだったが、眠る公女の小さな寝言に思わず振り返った。彼女の今の呟きはなんだ? 今、何かとんでもないことを……。
「ジャムシード! いつまでも女性の部屋に居続けるものではないわ。公女さまはあなたの妻女ではないのよ!」
 もう一度聞こうと身を屈めたところにナナイの鋭い声が響いた。彼女には今の呟きが聞こえなかったらしい。あるいは聞こえていて無視したのか。
「判ってるよ。だけど、臣下の者として公女さまを心配するのは当然だろう?」
「度が過ぎれば、痛くもない腹を探られて不愉快な思いをするだけよ。あなたはもう少し女性の扱いを学ぶべきね」
 ナナイからそんな言葉を聞く日がこようとは。彼女も部族長ジューザの妻としての役割を果たしてきたのだ。部族の女たちを観察した結果が今の言葉に繋がるなら、ジューザとナナイの役割分担は上手くいっているに違いない。
「ナナイもすっかり部族長の妻が板に付いてきたんだな。もう弟としての俺はお役ご免だ。俺が動かなくても女たちがナナイを頼ってくるだろうし」
 一瞬眼を見開いたナナイがばつが悪そうに視線を反らし、唇を尖らせた。
「そういう言い方は卑怯よ!」
「何が卑怯? ナナイが部族内でしっかり役目を果たしているのなら、俺がしゃしゃり出る必要はないだろ。現にナナイは今、公女さまとの距離を取れと言った。それはイコン族と俺との関係にも通ずるところがあるだろう?」
 支えがなければ倒れそうな者を見つけると手を差し伸べてしまう。それはジャムシードだけでなくナナイも同じだ。イコン族内で形式上は姉弟として認識されてきたが、似た行動が周囲への認知度を上げていたのかもしれない。
 だが、ナナイが指摘するように公女と距離を置くというのならば、これからのジャムシードはイコン族とも距離を置かねばならなかった。ジューン島の領主の地位はいい加減なものではない。あの地は南方へ向かう航路の要所だ。周囲の地域と付かず離れずの関係を保たねばならない土地である。
「人の関係が刻々と変わっていくのは当然のことだよ、ナナイ。それを受け入れる度量だけは失いたくないと思わないか?」
 歩み寄り、ジャムシードはナナイの肩に手をかけながら顔を覗き込んだ。
「わたしは今、自分の言葉で身を切り刻まれているのね……」
 目尻にうっすらと涙を溜め、ナナイはジャムシードを見上げた。
 ナナイの言葉に返事を返すことなく、ジャムシードは部屋から出るよう促す。炎姫公女が目覚めるまでここには用がないのだ。
 むしろナナイはジューザが眼を醒ましたときに側にいるべきだろう。でなければ、妻の不在に狼狽え、ジューザが何をしでかすか判ったものではなかった。
 肩を落としたナナイを先に部屋から出し、ジャムシードは自分が部屋から出る一瞬、ベッドで眠る公女を振り返る。衝立で遮られていて彼女が眠る姿は見えないが、先ほど見た寝顔と呟きが頭から離れなかった。
 寝入る寸前までフォレイアは子どもの頃に戻っていたはずである。が、完全に寝入ったあの瞬間、最後に呟かれた言葉は子どもが発するには重すぎるものだった。あれは大人の公女と子どものフォレイア、どちらの言葉だろうか。
 すぐにきびすを返し、ナナイの後ろに従って廊下を進みながら、ジャムシードは考え込んでいた。自分の中に存在する者のことも意識から弾き出すほどに、今の彼は公女の呟きの内容に囚われていた。
「……ジャムシード? もしかして怒っているの?」
 恐る恐る声をかけてきたナナイの顔を見て、ジャムシードは自分がかなり厳しい表情を作っていることを悟る。それくらい深く考えに沈んでいたのだ。
「いいや。別にナナイのことを怒ってなんていないよ。むしろナナイが言ったように炎姫家とも適度な距離を取らないとならないだろうから、どうしようかと考えていたところさ。ナナイが気にするようなことは何もないよ」
 咄嗟にナナイに微笑み返し、ジャムシードは小さく肩をすくめながら考えていたこととは別の内容を言葉にした。
 実際、ジューン島領主となれば大公家とのつき合いは微妙なものになるだろう。ナナイに語った内容はいずれは答えを出さねばならないものだ。
 がしかし、今のジャムシードではその答えを出すことは難しい。いや、答えを出すどころか、いよいよ公女と関わることになりそうな予感があった。
『わたし……姉さまの、妹でいて……いいの?』
 公女の言葉が誰に向かって問われたものかジャムシードには判らない。姉に向かってか、父や母に向かってか、あるいはまったく別の人間に向かってなのか。が、確実に判ることは彼女が問いへの答えに怯えていることだ。
 自分が抱える現実の重さを恐れるように、フォレイアも何かに怯えている。その事実が、ジャムシードの意識を捕らえて離さなかった。